LCCよりコスパ 日中定期フェリー、関西で健在
とことん調査隊
大阪南港と神戸港には国内で数少ない中国・上海行きの定期旅客フェリーが就航している。「新鑑真号」と「蘇州号」だ。かつて長崎や下関、横浜からも中国便があったが、相次ぎ廃止した。なぜ関西に日中フェリーが残ったのか。格安航空会社(LCC)が普及した現在でどんな人が利用をしているのか。中国留学経験のある記者が探った。
8月下旬の朝、大阪南港の国際フェリーターミナルに新鑑真号が到着した。スーツケースをひいた乗客が次々と降りてくる。大阪・神戸―上海間を片道46~48時間かけて週1往復運航し、この日の乗客数は110人と定員の3割程度。なぜフェリーを選んだのか。乗客に聞いてみた。
家族と日本を訪れた喬建輝さんは「荷物超過料金がほとんどかからないため、飛行機に比べてフェリーは得だ」と話す。新鑑真号の運賃は片道2万円から。関西―上海間のLCCは片道1万円程度からだが、手荷物が2つある場合は3万円近くかかる。家族連れや帰省など荷物が多い旅行者にとってフェリーは割安な交通手段のようだ。
新鑑真号は日中国際フェリー(大阪市)が1985年に日中間を結ぶ初めての定期フェリーとして就航させた鑑真号が前身。大阪・神戸―上海間を運航し、日本人大学生が訪中する定番の交通手段となった。88年に搭乗した神戸市の小西修治さんは「とにかく安かった。初めて訪れた中国は改革開放後でとても熱気があった」と振り返る。93年には上海フェリー(大阪市)も大阪・横浜―上海間で蘇州号を就航させた。
「今は乗客のほとんどが中国人ではないか」。年4~5回搭乗する楊沢敏さんはこう指摘する。関西を訪れる中国人観光客が増加しているが、実は在留者も増えている。2018年12月地点の大阪府の在留中国人数は約6万3000人と5年間で3割増えた。中華街のある兵庫県も約2万4000人にのぼる。
在留中国人が多い神奈川県も高い需要があるとみて、新鑑真号は94年に横浜まで延伸した。だが翌年には蘇州号とともに横浜線の運航を中止。片道70時間超の船旅は乗客の負担が大きかったようだ。
新鑑真号と蘇州号は現在、中国人の帰省や家族旅行の足として活躍するが、2000年代初めまでともに1万人近かった年間乗客数は4000~5000人まで減った。座席の稼働率では10~15%にとどまる。なぜ運航を維持できるのか。そのヒントは搭乗客の横で船を出入りするトレーラーにあった。
「上海から来る便の荷物はほとんどが洋服。いまの時期は秋冬ものが多い」。日中国際フェリーの村上光一社長が説明してくれた。日中フェリーが関西に残ったもう一つの理由が、貨物輸送だ。
関西にアパレル企業、中国には衣料品の工場が集積する。上海発のフェリーはアパレル企業が中国からの仕入れに使い、常に6割以上の貨物スペースが埋まる。一方で関西発の便は液晶パネルやリチウムイオン電池などが積み込まれる。日本海事センター(東京・千代田)の松田琢磨主任研究員は「国際フェリーにとって貨物輸送は重要な収入源だ」と解説する。
11年に長崎―上海間に就航した旅客船「オーシャンローズ」は貨物輸送がなく、尖閣諸島問題で中国客が激減した結果、就航1年を待たずして休止した。一方で下関―蘇州・太倉を結ぶフェリーは旅客が無くなったが、今でも貨物専用として存続する。
関西と中国を結ぶ定期フェリーは30年以上、日中両国の交流と交易を支えてきた。楊さんは「船旅は長いが、同乗した人と仲良くなることがある。フェリーで築いた友情は仕事や日常生活にもつながっている」と話す。遅い夏休みにのんびり船の旅はどうだろうか。
(松本晟)
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